工場情報活用事例(その1)
T社の機械加工職場の診断では、現場の作業者、作業長、製造長の書くメモ、伝票、日報、集計票、グラフ等のペーパー(紙の意味ではなく、報告書や連絡書などを指す)が、ひとつの職場から80数種が集められました。これに毎月職場当たり延べ380時間の工数が事務工数として使われていることが明らかになりました。また、作業長の業務内容のうち約30%が上記の事務工数に使われ、製造長の約70%が上記のインプットを含む事務工数およびメールによる連絡や報告の工数として使われていました。
このような事務量の増加は、現場のコストを増大させているだけでなく、結果的に現場管理監督者の現場離れを助長し、本来の業務(目標の設定、計画策定、作業指示、現場の監視、異常対応、そして、反省と改善等)をできにくくさせています。
そこで、その対策として、機械の側にPOP端末機をおいて、POP端末機 とパソコンとをLANで結び、パソコンが上記80数種のペーパーを自動的に作成する(機械からの信号から出来高や工数を自動的に採取して、これを情報処理する)ようにして、作業者からのメモや伝票を無くすとともに、作業長や製造長の事務工数を1/10に削減し、その削減された時間分、本来の仕事ができるように業務革新できました。
もちろん、パソコンに集められた情報やデータはマクロに編集された後、ネットワークのサーバを介して、MRPやERPに自動的に受け渡されるシステムを実現しています。(蛇足)
最近の新聞報道によれば、事故やトラブルの続く日本を代表するM重工が出した対策が、製造長の事務量の多さが製造長の現場離れをひきおこしているとして、製造長に事務の副長をおくとともに、現場監督手当てを増額するというものでした。
この報道は、現場重視の思想が回復してきた意味では歓迎すべきですが、ITによる業務革新の視点に欠けているため、省力とコストダウンに反し競争力を弱体化させる的外れな対策になっていると思われます。
POP研究所 山口俊之
工場情報活用事例(その2)
自動車や事務機の部品の中に使われるバネをつくるC社の診断では、数千品番の短納期対応のために、ロットを分割してその日に出荷する量だけ先行させて作ることが行われており、そのロットの工程の進捗を把握するために毎日工程進捗会議を開いている現実が明らかになりました。この会議には約15工程ある工程の作業長と3名の製造長そして生産進行のスタッフ3名が参加し、毎日1時間行われ、その会議の結果を持ち帰って、各作業長は自工程の作業の差し立て計画を作り、作業指示していました。
そこで、この会議をやらないで、多品種の短納期対応ができるように業務を革新することを考えることにしました。
生産進行のスタッフの業務には、分割されたロットも含めて、全てのロットの工程進捗状況がパソコンの画面で見えるようにすること、そして製造長に当日の出荷品番と数量の指令を出せること。製造長の業務には、生産進行スタッフからの当日の出荷品番と数量の指令情報とロットの工程進捗状況とが分かって、ロットの優先順位とロット分割を作業長に指示できるようにすること。そして、各工程の作業長の業務には、製造長からのロット優先順位、ロット分割の指令情報、前工程の進捗情報、および前工程と自工程の間の仕掛り在庫がわかるようにし、各作業者に差し立てを変えて作業指示できるようにすることです。これら業務とそれに必要な情報が分かれば、これらの情報を必要なときに提供して、情報的に支援するシステムを構築すればいいわけです。
ロットの工程進捗を把握するためには、バーコード付の現品票を初工程とロット分割の発生する工程で発行できるようにします。これを各工程で、まず作業長が工程の受付けのために、バーコードスキャナで現品票をなぞれば、その時刻に、このロットの工程所在がわかるわけです。次に、作業者が作業にかかるときこの現品票をバーコードスキャナでなぞれば、着手時刻とともに、加工開始の状況がわかります。作業が終わって、再度なぞれば、終了時刻とともに加工時間がわかり、工程の加工終了の進捗がわかります。最後に、次工程への払い出しの時に作業長が現品票をなぞれば、これによって、払出し時刻とともに工程間仕掛り在庫がわかります。また、これらの操作ごとに出来高や不良数を入力すれば、進捗のみならず、各工程の作業日報に必要なほとんどの情報が得られるようになります。
これによって、工程進捗会議が無くなっただけでなく、作業者は作業日報を書かないでよくなり、作業長は工程日報を作る事務作業から解放され、製造長は情報やデータの入力から解放され、より前向きな業務がおこなえるようになりました。
POP研究所 山口俊之
工場情報活用事例(その3)
受注生産で、トラックの特殊艤装車を組み立てるM社の診断では、古い標準工数(ST)のもとで見積りがなされ、受注すればその製番のSTの合計工数が現場に指示工数として降ろされます。一方、現場では、作業者の書く日報から、製番ごとの工数を集計して実績工数として、製番の工数損益を指示工数と実績工数の差で管理されていました。この場合、まず、STが現場の実行工数(AT)と食い違っていれば、見積りの信頼性が無いばかりか、現場は製番の赤字がでても、これを次製番の改善に生かすことができませんでした。
そこで、“正確な実行工数の把握を第1”と考え、第2に作業者に目標工数を意識して作業してもらい、自分で目標工数と実行工数の差をその都度認識して反省してもらい、第3に、正確な実行工数を標準工数に更新して見積り精度の向上へとのシナリオを練り上げました。
実行工数の把握には、全作業者に押しボタン式のモバイルITツールを持っていただき、ある器具を取りつける作業の場合、作業開始のときに該当する作業番号を探せば、目標時間がわかり、その「開始」押しボタンを押せば着手時刻がメモリーされ、作業終了の時は「終了」の押しボタンを押せば終了時刻がメモリーされ、目標工数と実行工数そしてその差も確認できるようにしました。その日の作業が終わって、ITツールを収納箱におけば、メモリーされたデータは自動的に作業長のパソコンに伝送され、パソコンで情報処理されて、作業番号ごとの損益、製番ごとの損益、作業者ごとの工数損益がいつでも見ることができるばかりか、職場の日報や月報が自動的に作成され、これらのデータはサーバーを介して原価管理と生産管理のホストに送られて、STの見直しにも活用されるようにしました。
作業者が“その仕事の時間を意識して作業する”ことは、最大の効果を生み出す業務革新になりますし、目標時間と実行時間とをその都度認識できることで、自分の作業の様子が“データの鏡”によって自分でチェックでき、改善できるようになります。(改善を表彰で報いることも必要です)
また、作業長や製造長の業務は集計やインプットの仕事から解放されて、作業者の生産性を高めるための、作戦と計画、生産準備、そして職場改善という本来の業務へと業務革新できることになりました。
さらに、現場の実力を反映したSTは、単に見積りの精度向上のみならず、経営の意志決定のための貴重なデータとなるわけです。
POP研究所 山口俊之